それらしくなく、それっぽく

映画やドラマのネタバレがいっぱいある。誤字脱字もいっぱいある。

渇き。

監督:中島哲也 2013年 映画におけるグロテスクさは、とある分水嶺を境にコメディとなってゆく。私は、この映画を見てそう感じた。過去が過去のものとなってゆくにつれて社会から人間性が失われつつあるという漠然とした時代の雰囲気と、俳優の深刻な演技は…

レディー・プレイヤー1

監督:スティーブン・スピルバーグ 2018年 前回の記事に引き続き、”市民ケーン”(1941)に関係する映画である。本当にさまざまな賑やかしが多く、映画そのものの印象も賑やかで、カメラの動きもまた賑やかで、大変に楽しげなこの映画が、何者であったのかと…

Mank

監督:デヴィッド・フィンチャー 2020年 しばしば、映画の中でされる例え話は、物語を抜け出して映画そのものの本質に対するヒントになるような役割を果たしている。有名な例では”クライング・ゲーム”(1992年)などを挙げることができる(制作年を調べるた…

ブリジット・ジョーンズの日記

監督:シャロン・マグワイア 2001年 いやがおうにもドラマ”Fleabag”(2016年)を意識せざるを得なかった。そんな対比の中でもっとも際立つものが、この映画のありえなさである。本当にあり得ない。しかしそこが恋愛コメディとしての規律のようなもので、ハリ…

シン・エヴァンゲリオン劇場版 反復記号(繰り返しはここまで)

ネタバレがあります。これは映画をすでに見た人に向けて書かれています。 監督: 鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏 総監督: 庵野秀明 2021年 久しぶりの映画批評ということで、新作映画を扱う。映画館に行くついでに本屋に立ち寄ったところで、邦訳版ではあるが…

「アランフェスの麗しき日々」

監督:ヴィム・ヴェンダース 2016年 この映画ではアクションは最小限に抑えられている。しかし、それでも十分なほどに俳優の演技は叙情豊かである。そもそも、この映画は退屈なものだと言い切っていいだろう。それもネガティヴな領域での退屈さだ。そんな映…

「スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜」

監督:ジョージ・クルーニー 2011年 この映画では、正義という目標がいかに人を変えてしまうかということを辛辣な描写で能く描いている。一見するとジャーナリスティックな告発や政治サスペンスのようにも思えるが、この映画の本質的な部分はおそらくはそう…

「アンドロメダ…」

監督:ロバート・ワイズ 1971年 この堅実なSF映画の魅力は編集にあるのだろう。映像を取ってただつなぎ合わせる以上の技が、そこにはある。 SF映画といえば遠い未来を描くものが多いがここでは、あくまでも1971年が舞台なのだ。この映画のメッセージが持つ力…

「かくも長き不在」

監督:アンリ・コルピ 1961年 三日前に見た映画である。どうにも書こうとするととんでも長くなり、かといって短くしようとするとうまくかけないので、なかなか何を書くか決めあぐねていた。 物語の解説は不要だろう。そして、この映画が撮られた歴史的背景も…

「フリー・ファイヤー」

監督:ベン・ウィートリー 2017年 大人向けアクションコメディの佳作といったところか。特に非があるわけでもなく、かといって別段に素晴らしいというわけでもない。タランティーノ的な犯罪映画をステディに仕上げたとでも言うのが良いかもしれない。 実際、…

「光をくれた人」

監督:デレク・シアンフランス 2016年 前回に引き続き、主演はマイケル・ファスベンダーである。そして、彼の演技は素晴らしいのだ。美しい景色、幼い子供を巡るどうにもならない人々の関係、この映画は、大海を覆う厚い雲のような印象を持つ。下を見れば海…

「プロメテウス」/「エイリアン・コヴェナント」

監督:リドリー・スコット 2012年/2017年 終わってみて思うのは、「エイリアン」(1979年)とまだ完全に繋がってないように見えることだ。ただ、今更そんな整合性など気にしても仕方ないのでは?とか、映画として面白ければいいのでは?と思える。 映画自体…

「エイリアン4」

監督:ジャン=ピエール・ジュネ 1997年 俳優は今作が一番豪華なのではないか。とはいえ、それもジャン=ピエール・ジュネ監督御用達の俳優がいるおかげでそう感じるだけかもしれないが。他には、ティム・バートンの「ビートルジュース」で主役を演じたウィ…

「エイリアン3」

監督:デヴィット・フィンチャー 1992年 まずこの映画で感じたのは、映画自体の出来は前作よりずっと良いということだ。それまでとは違った空気感や物語の進行には、すでにフィンチャーらしさが見て取れ、彼がサスペンス作家としてすでに卓越した腕を持って…

「エイリアン2」

監督:ジェームズ・キャメロン 1986年 名作SFホラー映画の第二弾。それでも、これで見るのは2回目だ。さらに言えば、3と4とその先のシリーズも見ていない。 良くできている。それに尽きる。しかし、この映画の場合、良くできているだけで良いのだろうか。 …

「殺したい女」

監督:ジェリー・ザッカー、ジム・エイブラハムズ、デヴィッド・ザッカー 1986年 これは、伝説の映画「ケンタッキー・フライド・ムービー」から始まる、コメディ職人たちによる一連の映画作品の一つだ。 下ネタ、皮肉が効いたジョーク、この映画でもそれは大…

「カフェ・ソサエティ」

監督:ウディ・アレン 2016年 埋没した黄金の都市を眺めるように、我々は古きハリウッドを見つめる。映画史にその名を残す名優たちを中心に、巨匠と言われる映画監督や脚本家、そして、優れた大作を世に送り出し続ける映画会社。 スウィングする古いスタイル…

「第十七捕虜収容所」

監督:ビリー・ワイルダー 1953年 どうやらこの映画、原作の演劇があるようで、オープニングの際にクレジットがある。映画化する際にどれだけの変更が加えられて、一体どこがビリー・ワイルダーによって書かれた部分であるかはさだけではないが、この映画は…

「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」

監督:アン・リー 2012年 事実と真実の違いということが言われることがある。事実が物質的なもので、真実は精神的なものであると言えるだろうか。 この映画にはトリックがある。それが、恐らくは貨物船の沈没のその最後の瞬間かもしれない。 物語は、小説家…

「髪結いの亭主」

監督:パトリス・ルコント 1990年 最高ということは、それからは凋落するしかないのである。髪結いの女は、それに耐えきれなかったのだ。 色調の優しさ、愛、エロティシズム。そして、この映画は、実に小説的な映画である。全ては主人公の回想であり、それは…

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」

監督:ジム・ジャームッシュ 1984年 どこかちょっと抜けたところがある悪い男二人と、聡明でちょっと変わった悪い女一人、この映画はこの登場人物を中心に進む。 カットの平均的な長さは1分を超えるのではないだろうか。ほとんどのカットが長回しによって描…

「ストリート・オブ・ファイヤー」

監督:ウォルター・ヒル 1984年 これは、限りなくポップミュージック寄りのロックミュージックだ。そして、またこの映画は、作られるべくして作られたB級映画とも言えるかもしれない。 例えば、「ジーザス・クライスト・スーパースター」、「ファントム・オ…

「スリーピー・ホロウ」

監督:ティム・バートン 1999年 ティム・バートンの映画は割と見ている方で、実は今作も10年以上前に見ている。テレビなんかで放送していて、それを鑑賞した記憶がある。それも全部とは言わないが、だいたい7割ほど進んだあたりで、なんらかの事情で見終え…

「ロスト・チルドレン」

監督:ジャン=ピエール・ジュネ 1995年 この映画は、「デリカテッセン」、「アメリ」の監督で知られるジャン=ピエール・ジュネ監督の長編2作目に当たる。「デリカテッセン」という映画で表現された、荒廃したディストピアはこの映画でもまた能く描かれてい…

「山猫」

監督:ルキノ・ヴィスコンティ 1963年 この国に住む我々は多くの場合、このイタリア統一という出来事を歴史的な事件として学ぶこととなる。教科書に描かれた赤シャツの兵士たちやガリバルディの肖像、そしてイタリア半島の地図を通して、そこで何が起こった…

「ダンケルク」

監督:クリストファー・ノーラン 2017年 ダンケルクの戦いと聞いて、あああれかと思ったのは、アメリカの映画「ミニヴァー夫人」のシーンだった。この映画はダンケルクの戦いから2年後である1942年に公開され、文芸映画として、またプロパガンダ映画として広…

「レディ・バード」

監督:グレタ・ガーウィグ 2017年 熱心なインディペンデント映画ファンならば、この作品の持つ硬派な映画スタイルを否定的に捉えることがあるかも知れない。しかし、それはこの映画の建築的な部分が持つ美しさでもあるのだ。 同性同士の友情、親子の関係、恋…

「エリザのために」

監督:クリスティアン・ムンジウ 2016年 映画はある石が窓ガラスを割るところから始まる。誰が投げたのか、そしてなんのために。 破綻した家族は娘が暴漢に襲われたことで、完全に壊れてしまう。しかし、その絆は嘘のない純粋なものへと変化する。 人情や優…

「20センチュリー・ウーマン」

監督:マイク・ミルズ 2016年 あれ、俺の15歳の頃ってどんなだったかな。と思った。アニメを見て漫画を読んでマスかきに勤しむ日々。学校は楽しくないけど、それでも通った。実際に自分が女の子と付き合ってセックスするなんてなんて、考えたことも無かった…

「たかが世界の終わり」

監督:グザヴィエ・ドラン 2016年 最高にかっこいい映像だった。そして物語は、鋭敏かつ繊細なものであった。 息子の才能を天に与えられたものとして、それを利用して家族を望む姿にしたい母親。本来、父のいない家族を取り仕切るはずの自分がそれほど能力も…